大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(ネ)144号 判決

被控訴委員会は、「控訴人には本件売渡計画の取消行為の無効確認を求める訴の利益がない。」旨を先ず主張するので、以下に検討する。

昭和二九年一〇月二一日農地法が施行されると共に、自創法が廃止されたので(農地法施行法第一条)、以後、農地等は、農地法の規定によつて売り渡されることになつたが、農地法施行法第三条第一項は、自創法の規定によつてした農地等の売渡に関し、自創法の廃止と農地法の施行に伴う経過的措置を規定し、農地法の施行前に、既に自創法第二〇条の規定による売渡通知書の交付があつた農地等については、その売渡の効果、対価の徴収、訴訟、登記、土地台帳法の適用など、すべて自創法の規定によることとし、引き続き自創法の規定による手続を進めることとした。従つて、売渡通知書の交付にいたらなかつた農地等については、それまでにした自創法の規定による手続をそのまま打ち切り、改めて農地法の規定する手続に従つてこれを売り渡すことになつたのであるが、農地法施行法第一三条は、自創法(又は同法に基く命令)の規定によつてした処分、手続その他の行為であつても、農地法(又は同法に基く命令)中にこれに相当する規定があるときは、これらの規定によつてしたものとみなして、その効力を有するものと規定した。

本件農地については、前記のように、自創法第二〇条の規定による売渡通知書の交付がないのであるから、その売渡の手続は農地法の施行後は、改めて農地法の規定と従前の法とを照し合わせて再検討せられなければならないのである。思うに控訴人が本件売渡計画の取消行為の無効確認又はその取消を求める利益があるかどうかは、本件売渡計画が、農地法の規定によつてしたものとみなされ、同法に規定する手続としての効力を有するかどうかにかかるものということができる。

そこで、果して本件売渡計画がこのような効力を有するかどうかについて、考えるために、本件農地(本件農地が自創法第三条第一項第二号の規定によつて買収された農地であることについては、控訴人が明らかに争わないから、当事者間に争のないものとみなす。)の如き農地の売渡手続に関する自創法の規定と農地法の規定とを比べてみると、自創法の規定では、(1)(買受の申込)農地を買い受けようとする者が市町村農地委員会(又は農業委員会)に対してその買受の申込をし(自創法第一六条、第一七条)、(2)(農地売渡計画の樹立)市町村農地委員会が、売り渡すべき農地並びに売渡の相手方、時期及び対価を定めて、農地売渡計画を立て、遅滞なくその旨を公告し、且つ公告の日から一〇日間関係書類を縦覧に供し、(同法第一八条第一ないし第四項)、(3)(売渡計画に対する異議申立、訴願提起)農地売渡計画について異議ある買受申込人が、市町村農地委員会に異議を申し立て、これに対する同委員会の決定に対し不服ある申立人が都道府県農地委員会(又は農業委員会)に訴願を提起し(同法第一九条、第七条)、(4)(都道府県農地委員会の承認)法定期間内に異議の申立若しくは訴願の提起がないとき、又は訴願の提起に対する裁決があつたときは、市町村農地委員会が遅滞なく農地売渡計画について都道府県農地委員会の承認を受け(同法第一八条、第八条)、(5)(売渡通知書の交付)都道府県知事が、都道府県農地委員会の承認があつた農地売渡計画により、売渡の相手方に売渡通知書を交付し(同法第二〇条)、売渡通知書の交付があつたとき、農地の所有権が、売渡通知書に記載された時期に、売渡の相手方に移転することとなる(同法第二一条)。これに対し、農地法の規定では、(1)、(買受の申込)農地を買い受けようとする者が買受申込書を市町村農地委員会に提出し、(農地法施行法第五条第一項、農地法第三六条、第三七条)、(2)、(市町村農地委員会の関係書類の進達)市町村農地委員会が、買受申込書に基いて、売渡の相手方の氏名及び住所、売り渡すべき農地の所在、地目及び面積その他の所定事項を記載した関係書類を都道府県知事に進達し(同法第三八条)、(3)、(売渡通知書の交付)都道府県知事が、進達された関係書類に従つて、売渡通知書を作成し、これを売渡の相手方に交付し、売渡通知書の交付があつたとき、農地の所有権が、売渡通知書に記載された売渡の時期に、売渡の相手方に移転することとなるのである(同法第三九条、第四〇条)。

以上によつて明らかなように、農地法の規定では、自創法が、農地の買受申込があつてから都道府県知事が売渡通知書を交付するにいたるまでのその間の手続として規定した、農地売渡計画の樹立、公告、関係書類の縦覧、異議の申立、訴願の提起及び都道府県農地委員会の承認などを廃止し、これらの手続に代えて、農地の買受申込があつたときは、市町村農地委員会が関係書類を進達し、これに基いて、都道府県知事が売渡通知書を売渡の相手方に交付することとしたのであつて、農地法中には、自創法の農地売渡計画に関する規定に相当する規定はないのである。

控訴人は、この点について、「自創法と農地法との規定による農地等の買受申込から売渡通知書の交付にいたるまでの両手続の目的などは同一であるから、これらの手続に関する両法の規定は、一括してかれこれ相応する規定とみることができる。」旨を主張するのである。両法の規定によるこれらの手続は、いずれも耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を計るために、耕作者自身に農地等を売り渡すことを目的とするものではあるが、前記のように、農地法が農地等の売渡手続につき、農地売渡計画の樹立ないし都道府県農地委員会の承認に関する自創法の規定の代りに、市町村農地委員会の関係書類の進達に関する規定を新たに設けた以上、右の如き目的などが同一であるというだけでは、農地等の買受申込から売渡通知書の交付にいたるまでの手続に関する両法の規定をそれぞれ一括してみても、農地法施行法第一三条にいわゆる「相当する規定」であると解することはできない。

以上の次第で、農地法中には、自創法の農地売渡計画に関する規定に相当する規定はないのであるから、自創法の規定による本件売渡計画は、農地法に規定する手続としての効力を有しない。

してみると、たとえ本件売渡計画の取消行為が無効であり、又は取り消されたとしても、控訴人はもはや本件売渡計画に基いて本件農地の売渡を受けることができず、従つて、右取消行為の無効確認又はその取消を求める控訴人の本訴請求は、その利益がないものといわなければならない。

なお、控訴人は、「関係書類の縦覧期間内に本件売渡計画に対する異議の申立がなかつたので、その期間の経過によつて、控訴人に対する本件農地の売渡の効果が確定し、この確定した売渡の効果は、自創法が廃止されても、失われるものでなく、従つて控訴人は、売渡通知書の交付その他本件売渡計画樹立後の手続の進行を期待し得る地位にあるから、(これらの手続の進行を妨げている)本件売渡計画の取消行為の無効確認を求める訴の利益を有する。」との趣旨を主張するようであるが、自創法の規定による本件農地の如き農地の売渡の効果は、関係書類の縦覧期間内に農地売渡計画に対する異議の申立がないときに、その期間の経過によつて、生ずるものでなく、自創法第二〇条の規定による売渡通知書の交付があつたときに、生ずるものであることは、同法第二一条の規定によつて明らかである。本件農地については、控訴人に対し売渡通知書の交付がないのであるから、その売渡の効果は生ずるはずがなく、従つて、控訴人に対する本件農地の売渡の効果が発生したことを前提とする控訴人の右主張は、既にこの点において理由がないものということができる。

(角村 菊池 吉田豊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!